シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナルstage 【EP-12 サイドN】

 治輝は地上に接近するにしたがって、七水に接近する影をはっきりと視認する。
「やっぱりモンスターか――!」
 指の先から機械的な管のようなモノが伸びていて、グロテスクな形状をしている。
 あれはカードから実体化したモンスターというより、もっと違う何かだろう。
 周りにいる影は数匹、その内一匹は既に七水の真正面まで接近している。

 ――いつも通り<ドラグニティアームズ・ミスティル>を呼び出して、着地するわけにはいかなそうだ。
 ならば、と治輝はカードを2枚取り出した。そのうち1枚を決闘盤にセットする。

「――ミスティル!」

 カード名を叫び手に取ると、そのカードが形状を変えた。
 それは、一本の剣。
 <ドラグニティアームズ・ミスティル>が有する漆黒の剣が、治輝の手元に具現する。
 落下速度は弱めない。
 七水に近付いた化け物の指から発する管が、衣服へと入り込む。
 それとほぼ同時に治輝は伏せカードを発動し、剣を化け物の頭部に突き刺す。
 化け物は悲鳴も上げず霧のように消滅し、剣が地面に深々と突き刺さった。
「ぐっ……!」
 バキリ、という嫌な音が聞こえた。
 たまらなく剣から手を離し、そのまま足を地面に叩き付けられる。
 また音が聞こえた。
 痛みよりも溶岩のような熱さが体の芯を埋め尽くし、立っていられなくなる――が。

《超再生能力(ちょうさいせいのうりょく)/Super Rejuvenation》 †

速攻魔法
このカードを発動したターンのエンドフェイズ時、
このターン自分が手札から捨てたドラゴン族モンスター、
及びこのターン自分が手札・フィールド上からリリースした
ドラゴン族モンスターの枚数分だけ、
自分のデッキからカードをドローする。


 サイコ決闘者は、カードの力をある程度実体化する事ができる。
 治輝はその効果により無理やりボロボロになった体を一時的に再生し、剣を再び引き抜く。
 そして向かってくる化け物を、次々と切り伏せる。
「ラスト――!」
 最後の化け物――影に向かって、治輝は突進した。
 剣を思い切り袈裟に斬り降ろし、そして

 ガキィン!と、金属同士がぶつかった時のような甲高い音が聞こえた。

「な……」
「チカラ――酷く淀んだチカラ――」

 声が聞こえたかと思うと、見えない力で大きく吹き飛ばされた。
 集中が途切れた事で具現した剣は姿を消し、床に叩き付けらる。
 余りの衝撃に失神しそうになったが、なんとか堪える。

「おまえ――」
 目の前の化け物は、他の奴らとは何かが違った。
 紫色の光を発する影。
 ――そもそも、光る影という時点で既に異質だ。
 それに加え声を発し、力も強い。
 そして何よりも――

「ソイツはニエだ。邪魔をスルナ――!」
 ソイツ、とは七水の事だろうか。
 頭部に若干の痛みを感じたが、体を起こし目の前の影と対峙する。
 すると



「――ハッ。隙だらけだぜ、化け物」



 声と共に、真紅の豪槍が化け物を襲った。
 死角からの一撃にはさすがに対応できなかったのか、くぐもった声を上げる。
 その攻撃を行ったのは<ジェムナイト・ルビーズ>

「テルさん……!?」
「先走りやがって――追いつく身にもなってみろ」
 影の向こう側から神楽屋はそう言い放つ。
 槍を振り下ろされた事で、その影は霧のようだった輪郭を少しハッキリと明滅させた。
 毒毒しい黄色い爪と、怪しげな骨格が僅かに浮かび上がる。

「……コノ程度ォ!」
 影は眼光のようなものを輝かせ、衝撃波を発生させた。
 <ジェムナイト・ルビーズ>と神楽屋はたまらず治輝の方へと弾き飛ばされる。
 神楽屋は巧みに受身を取り、帽子に手をかけながらも上手く着地した。
 衝撃で数枚のカードが散らばったが、神楽屋は素早い動作でそのカード達をデッキに戻す。
 
「コイツはなんだ? 見た事のないタイプだが――」
「『ペイン』に近い感じはする。 ……でもそれ以上はなんとも」
「ペイン――コイツがか。如何にも化け物らしい容貌だ」
「……あぁ」

 治輝は一瞬顔を伏せ、神楽屋はそれを見ると帽子を深く被り直す。
 七水がいる方向とは逆に吹き飛ばされてしまった為、七水との距離は化け物の方が近い。
 七水を確実に救い出す為には――
 治輝は伏せた顔を上げ、相手をハッキリと睨み付ける。

「決闘だ化け物。勝ったら七水を返してもらう!」
「歪んだチカラと純然たるチカラ――いいだろう、二人マトメテ相手をしてやる」
「ハッ、俺達を同時に相手しようってか。いい度胸じゃねぇか」

 神楽屋と治輝は、同時に決闘盤を展開させた。
 治輝は場に展開していた全てのカードを、ディスクに収納する。
 影の化け物の腕には、煙が色濃くなった瞬間にディスクが装着される。
 治輝は改めて拘束されている七水に視線を向け、掠り切れそうな程低い声で、言った。

「助けてみせる――絶対に!」

 ――決闘!!
 三者三様の声が響き渡る。
 だが、互いが互いに視線をやるべきこの状況で、神楽屋は別の方向を向いていた。

 それは敵である影に向かっての物ではなく
 味方であるはずの、時枝治輝に。